国が発表する障がい福祉事業に関する統計から、障がい福祉事業を拡大するヒントは読み取れないのでしょうか?
障がい福祉に関する統計は主に厚生労働省から発表されますが、その目的は第一に国の政策立案です。
本日お話しするのは「生活のしづらさに関する調査」という厚生労働省の統計の概要を説明します。
なんとこの統計を読み込むことで、なんと新規参入・事業拡大に必要な潜在的な利用者の動向がわかるのです。
そして、これらデータは厚生労働省が発表しているものなので信用性も大です。
それゆえにこの記事をとりあえず読んでおくと、障がい福祉事業の現在の市場規模を正確に把握するツールを得ることができます。
「生活のしづらさに関する調査」とは?

別名は「全国在宅障害児・者等実態調査」です。現在のところ、平成23年と平成28年しか実施されておりません。
それでは、この統計の厚生労働省による説明を引用してみましょう。
本調査は、在宅の障害児・者等(これまでの法制度では支援の対象とならない方を含む。)の生活実態とニーズを把握することを目的とする。これまでの身体障害児・者実態調査及び知的障害児(者)基礎調査を拡大・統合して実施(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/seikatsu_chousa_a.html#link01より)
在宅の障がい者が対象
ポイントは調査の目的が在宅の方を対象としている点です。つまり通常の住居にお住まいであり、かつ障がいを抱えておられる方の人口をまとめております。
地域に在住する障がい福祉事業の方には抑えておきたい統計ですね。
法的支援対象者外の方も対象
それともう一つのポイントは「これまでの法制度では支援の対象とならない方を含む。」という部分です。
これまで厚生労働省は、原則5年ごとに「身体障害児・者実態調査」及び「知的障害児(者)基礎調査」を実施して、調査結果を公表してきました。
しかしこの「生活のしづらさに関する調査」では、これまでの調査を次の観点から改善いたしました。
・新たに「精神障害者保健福祉手帳所持者」及び「障害者手帳は所持していないが、長引く病気やけが等により、日常生活にしづらさを感じている者」も対象とする
そうするとこの調査を参照すれば、これから障がい者手帳を取り、障がい福祉サービスにつながり得る潜在的な需要が把握できるというわけです。
平成23年度版の結果概要

在宅の障害者手帳所持者等の推計値
障害者手帳所持者 | 479.2万人 | |
---|---|---|
身体障害者手帳所持者 | 386.4万人 | 前回(平成18年)357.6万人 |
療育手帳所持者 | 62.2万人 | 前回※1(平成17年) 41.9万人 |
精神障害者保健福祉手帳所持者 | 56.8万人 | 前回は調査せず |
障害者手帳非所持者で、自立支援給付等を受けている者※2 | 32.0万人 | 前回は調査せず |
生活のしづらさがある者の推計
・障害者手帳非所持かつ自立支援給付等を受けていない者で、障害により日常生活をに生活のしづらさがある者
:132.9万人(65歳未満:29.3万人、65歳以上:103.5万人)
・福祉サービスを利用していないがその利用を希望している者:20.1万人(65歳未満:6.0万人、65歳以上14.1万人)
・この福祉サービス利用希望者の中では、福祉サービスをどの程度利用したいかとの質問に対して「わからない」と回答した者が最も多く、65歳未満で16.6%、65歳以上で9.6%。
・今回の調査結果を反映させた我が国の障害者の総数(推計値)は787.9万人(人口の約6.2%)となります。
平成28年度版の結果概要

在宅の障害者手帳所持者等の推計値
総数 | 593.2万人 | 前回(平成23年)511.2万人 |
---|---|---|
障害者手帳所持者 | 559.4万人 | 前回(平成23年)479.2万人 |
身体障害者手帳所持者 | 428.7万人 | 前回(平成23年)386.3万人 |
療育手帳所持者 | 96.2万人 | 前回(平成23年) 62.2万人 |
精神障害者保健福祉手帳所持者 | 84.1万人 | 前回(平成23年) 56.8万人 |
障害者手帳非所持者で、自立支援給付等を受けている者 | 33.8万人 | 前回(平成23年) 32.0万人 |
障害者総合支援法の福祉サービス利用状況をみると、障害者手帳所持者のうち、障害者総合支援法の福祉サービスを利用している者の割合は、65歳未満では32.1%、65歳以上では19.8%となっている
在宅の身体障害者手帳所持者(推計値)は428.7万人、療育手帳所持者(推計値)は96.2万人、精神障害者保健福祉手帳所持者(推計値)は84.1万人となり、いずれも前回調査から増加していることが読み取れます。
今回の調査結果を反映させた日本の障害者の総数(推計値)は936.6万人(人口の約7.4%)となります。
生活のしづらさがある者の推計
障害者手帳非所持かつ自立支援給付等を受けていない者の中で、障害による日常生活を送る上での生活のしづらさがある者
:137.8万人(65歳未満:29.3万人、65歳以上:103.5万人)
福祉サービスを利用していないがその利用を希望している者:25.8万人(65歳未満:5.4万人、65歳以上20.8万人)
「生活のしづらさに関する調査」の活用法

一般的にこの「生活のしづらさに関する調査」は、障害者数を見積もるために使用されています。
この平成23年度と平成28年度を比べると、年々障がい者数や生活のしづらい方が増えていっているのが分かります。
では、これからどんどん市場規模が広がっていくという楽観的観測を得ることだけが、統計を調査した成果でしょうか。
分析のポイント
実は、これから障がい福祉事業者側にとって、この障がい福祉統計データが重要になるのは、次のポイントです。
・障害者手帳非所持かつ自立支援給付等を受けていない者で、かつ何らかのサービスをこれから必要としている者の推計
つまりこれから障がい福祉事業のサービス利用者になる潜在的な人口が判明します。
例えば平成28年度版では、潜在的利用者数は以前と比較して多くなっていますが、その内の障がい福祉サービス希望者の増え具合は潜在的人口の伸び率よりも大きくなっています。
またそのような潜在的利用者の中で、これだけ世間で喧伝されているのに、障がい福祉サービスについて「わからない」という回答が多かったことにも注目したいです。そしてこの傾向は65歳以下で顕著でした。
そう、これから障がい福祉の分野で事業拡大を考える方は、すでに手帳を持ちどこかのサービスにつながっている方の動向を見るのでなく、こうした潜在的な需要を掘り起こしていくかが勝負になってきます。
しかも厚生労働省発表のこの統計データを具体的に見ていくと色々なヒントが隠されています。
・生活をしづらい人が、どのような頻度で障がい福祉サービスを利用してみたいか
・何歳の生活をしづらい人が、障がい福祉サービスを利用してみたいか
・生活をしづらい人が、いつから手帳を取得しようと思ったか
など、他にも色々とありますが、一例だけを挙げてみました。
一般的には障害者人口だけをみて障がい福祉の経営について語る傾向にありますが、事業拡大のポイントは、この障害者手帳非所持かつ自立支援給付等を受けていない者に、どのような期待に添える障がい福祉サービスを提供するかです。
それゆえに、「生活のしづらさに関する調査」は、障がい福祉事業経営に欠かせないツールになってくるでしょう。



